売り手市場が続く採用市場では、少子化のため、ますます人員獲得競争が激しくなり、リファラル採用やミートアップ採用、ダイレクトリクルーティングなど、多種多様な採用方法が生まれています。
また2022年卒の学生から、通年採用が始まったこともあり、採用業務は煩雑さを増し、採用担当者の負担増に頭を悩ませる企業も少なくありません。
採用業務を効率的に行うため、以前より人材の仲介斡旋を行う人材紹介サービスがありますが、近年採用業務を代行して行う、「採用代行」が注目を集めています。
今回は、採用代行と人材紹介との違い、それぞれのメリットやデメリットを紹介するとともに、効率的な使い方についてご紹介致します。
1 採用代行とは
近年、業務効率化のため、外部委託(アウトソーシング)サービスをする企業が増えていますが、採用代行とは、採用に関する業務を外部委託する事を言い、RPO(リクルーティングプロセルアウトソーシング)とも呼ばれています。
売り手市場が続く中、採用市場は人員獲得のための競争が激しくなり、日本企業の9割以上を占める中小企業では、専任の採用担当者を置くことが難しく、他の作業と兼務して行っている企業も少なくありません。
新たに人事部要員として人を雇うより、業務委託費の方が総合的にコストを抑えられる、専門の採用業務担当に決まった期間業務してもらいたい、などの理由からベンチャー企業をはじめ、注目されています。
採用代行を希望する場合は、労働者の募集を外部に委託するため届け出が必要です。
・採用代行に必要な届出
採用代行を行う場合は、「委託募集許可等申請書(様式第3号)」の届け出を行わなければなりません。
社員以外の第三者が、報酬を受け取り、委託先の社員を雇用するための求人活動を行う行為(委託募集)を行う場合、厚生労働大臣もしくは就業場所を管轄する都道府県の労働局から許可を受けるが必要になります。(報酬が発生しない場合は、届け出をする必要がある)
委託募集は職業安定法第36条第1項で定められており、委託者である企業と採用代行サービスを提供している企業の双方が、過去に労働基準法違反や職業安定法違反を犯していないことが、許可基準の条件です。
1つの都道府県からの募集人員が30人以上となる場合や、募集人員の合計が100人を超える場合は、厚生労働省への届け出が必要で、それ以外の場合は就業場所を管轄する各都道府県の労働局への届け出が必要になります。
・採用代行の報酬額の相場
採用代行は、サービスを行っている企業へ料金を支払い、採用に関する業務を依頼します。サービスは月額制や業務量に応じた従量単価制、成果が出た段階で費用が発生する成果報酬制などがあります。
また新卒採用、中途採用による料金の差や、業務工程1つに付き料金設定がされている企業もあり、企業によりサービス内容も料金もまちまちです。
ノンコア業務(直接利益を生み出さないが、業務を後方支援する業務)、コア業務(業務の核となる中心的業務)で料金が分かれているケースもあります。
料金システム
システム制度 | サービス内容 |
定額性 | コア業務全般プラン、新卒採用対応プランなど、採用に関わる業務の一部または全部をパッケージ化し、3か月や1年などまとまった期間で契約を行う。費用計画が立てやすい。 |
成果報酬制 | 採用決定時や面接決定時に費用が発生する。求める成果が出ない限り料金が発生しないのが利点。ただし、成果時の料金は割高なケースが多い。 |
従量単価制 | 面接日の調整や面接合否の連絡、業務時間など、業務工程や業務量に対し契約を結ぶタイプ。決まった工程のみ外注したい場合に向いている。 |
複数の企業から見積もりを取り、自社が求めているサービスを提供している企業を選択しましょう。
2 人材紹介とは
人材紹介システムとは、求職者のスキルや能力と労働力を求める企業を結びつける、有料のマッチングサービスです。
人材紹介サービスを行うには、職業安定法4条に基づき、厚生労働大臣の許可が必要になります。
人材紹介では成果報酬型で、初期費用が掛からず、紹介者が雇用された段階で手数料が発生する採用課金タイプと、応募があった時点で手数料が発生する応募課金タイプがあります。
人材紹介サービスの流れとしては、求職者は登録する際、これまでのスキルや資格、希望する職種や年収、希望する勤務地などを入力します。
・採用課金タイプ
採用課金タイプは、登録が終わると、専用のエージェントが、登録している企業の中から条件に合う企業をピックアップし紹介します。面接日の調整や求職者と企業の条件などの橋渡しを行い、上手く求職者と企業の条件が合えば、面接、紹介へと進み採用となります。
料金は、採用者の年収の30%~35%が相場です。つまり採用者の予定年収が500万円だと150万円~175万円ほど発生する計算になります。
・応募課金タイプ
応募課金タイプは、求人に対し応募があった場合に料金が発生します。料金は、採用課金タイプより低い事が多く、大人数を採用したい場合向きの方法です。
紹介者が正式に採用となると、採用した企業は紹介料として、人材紹介会社へ料金を支払うシステムとなっています。
料金は、応募単価数千円~2万円程度が相場です。
3 採用代行と人材紹介の違い
採用代行は、人材紹介と混同されることがあります。専用のエージェントが、会員の中からマッチする人材を紹介するのが人材紹介で、採用代行は、企業の採用業務の人員として、求人広告の作成や求人エージェント探しや応募者の対応など、密に採用業務に携わります。
一方、人材紹介サービスは、求職者と企業のマッチングに関する調整や交渉などを行いますが、採用計画の策定や面接などのコア業務を行う訳ではありません。
採用代行は、採用計画から募集要項の策定、求人媒体の選出や応募受付、スカウトメール送信や面接日の調整など行い、場合によっては、面接代行も含めて、採用業務全般に深く関わります。
人材紹介と採用代行の違いを知り、目的に合ったサービスを利用しましょう。
4 採用代行と人材紹介のメリット・デメリットの比較
採用代行と人材紹介についてご紹介してきましたが、何事にもメリット・デメリットはあります。それぞれのメリット・デメリットを見てきましょう。
・採用代行のメリット、デメリット
① メリット
・採用専門のプロに業務を委ねることができるので、知識やノウハウの蓄積が可能で、業務の改善や効率化に繋がります。
採用業務は上記でも説明しましたが、採用の中核となるコア業務と、工数は掛かるが難易度の低いノンコア業務があります。
例えば、応募者の管理や、応募者への面接日の連絡、面接日程調整や面接会場への案内など、採用の中心部分ではないが、手間と時間が掛かる工程を外注する事で、従業員がコア業務や他の重要な業務に集中して取り組める事が大きなメリットです。
また、採用に関する豊富な知識を活かし、マッチする母集団を形成や、競合企業にリードできる採用戦略が出来る事も、採用代行の魅力の一つです。
売り手市場では、応募者へ連絡をスピーディに出すことは、企業への信頼に繋がります。せっかく企業に興味を持ち応募しても、企業から連絡が遅ければ、辞退して他の企業へと移ってしまい兼ねません。
採用代行を利用すれば、専門のスタッフが、応募者への対応もスピーディに、丁寧に行う事が出来、企業イメージのアップに繋がります。
② デメリット
採用代行サービス展開する企業は数多くあり、提供するサービスも多種多様です。その中から、自社が求めるサービスを探すのは、自社の課題を理解する必要があり、難しい面もあります。
例えば、いろいろな業務がパックになっている定形制サービスは、コストパフォーマンスが良いと感じ契約したものの、実際には利用しないサービスが入っていたり、必要なサービスが入ってなかったりして、あとで追加オプションが必要となり、かせって出費がかさむ結果となる場合もあるでしょう。
他にも、採用代行業者と企業の間で採用作成の認識にズレが生じ、母集団のミスマッチや早期退職に繋がるなどのデメリットもあります。
こうしたズレを防ぐには、業務ごとに、しっかりと打ち合わせを行う必要があります。
また採用代行サービスを展開している企業の中には、知識が浅い、必要なノウハウを持ち合わせていないスタッフが在中しているリスクも捨てきれません。
契約をする際には、担当者を変更したい場合や、契約の途中解約についてもしっかりと確認が必要です。
反対に、あまりにも業者に採用業務を任せてしまうと、自社の採用ノウハウの蓄積がされなくなる恐れもあります。
採用代行業者は、いわば採用業務のプロですから、専門性の高い丁寧な作業が期待できますが、便利だからとすべてをお任せしてしまうと、自社の採用の傾向や知識の蓄積がされなくなってしまいますので、あくまでもサポートとして活用するように注意が必要です。
・人材紹介のメリット・デメリット
続いては人材紹介サービスのメリット・デメリットです。
① メリット
第一のメリットは、採用業務のコストと業務削減です。
求人募集を掛ける工程は、募集方法の決定(求人サイトの掲載やエージェント先、スカウトメール送信など)→応募者対応→書類選考→面接日程調整→面接開催→採用者決定→採用者へ合否の連絡と多岐に渡ります。
上記工程をすべて社員だけで行うと、担当者を増やすか、他の業務と兼任で行えば残業の増加など、人件費が掛かることになります。
人材紹介サービスを利用すれば、求人広告の作成や応募者対応や選考、内定後のフォローなど、サポートが受けられるため、リーズナブルで効率的な採用活動に繋がります。
ほとんどの人材紹介サービスは、成果報酬制のため、初期費用が掛かりません。求人票の作成や応募者対応など、1つ1つの工程ではなく、採用が決定した場合に費用の支払いが発生するので、ひとまず使ってみるという利用の仕方もありでしょう。
また、急な退職などで、急ぎで人の募集をしたい時にも、人材紹介サービスの利用を検討するのもオススメです。
売り手市場では、転職活動の活発化しており、急な退職などで、人の募集が急を要する事もあるでしょう。
人材紹介サービスを利用すれば、専属のエージェントが、登録者のスキルや能力を見て、マッチする人材を素早くピックアップし、紹介へと繋げてくれます。
その他、非公開で求人募集を掛けたい場合にも、向いています。
求人広告を載せる際に、募集職種を掲載する必要がありますが、中には新規事業など、極秘で経験者を採用したいケースもあるでしょう。
一般的な求人サイトや広告では、希望する母集団を形成するためには、募集を掛ける際、出来るだけ詳細に記入します。その方が条件に見合う応募者が集まり易いためです。
ところが、誰でも閲覧可能は公開状態で詳細な募集条件を掲載すると、競合他社に求める人材が漏れてしまうリスクが生じます。
そうした場合に、人材紹介サービスの非公開求人を利用すれば、他社に知られることなく、希望する求人を採用出来るでしょう。
② デメリット
人材紹介サイトは、専用エージェントが付き、企業と求職者の条件とじっくり向き合い、双方が満足する採用活動になるようサポートするのが主な仕事です。そのため、大量採用には向いていません。
また、採用に関わる工程のほとんどを外注してしまうと、自社の採用経験が蓄積されないリスクがあります。
こうしたリスクもあるため、採用業務を人材紹介会社に頼り切るのではなく、自社でも独自に採用を行うなど、利用方法に工夫が必要です。
5 なぜ採用代行が注目されているのか
売り手市場が続く中、業種によっては慢性的な人手不足に陥っている企業も少なくありません。採用競争が激しくなる中、採用業務はより専門的な攻略と知識が求められるようになってきました。
特に人手不足になりやすい中小企業では、採用に掛けられる人員が限られるため、専門的な知識やノウハウが蓄積しにくい傾向があります。
採用代行や人材紹介サービスは、採用に関する豊富な経験と知識を持つプロですので、こうしたサービスを採用業務のサポートとして上手に利用すれば、採用担当業務に人件費を掛けるより、リーズナブルに、効率的に採用業務を行う事が可能になります。
少子化で労働力不足が心配される中、今後もこうしたサービスの利用はますます増加すると考えられます。
6 まとめ
今回は、採用代行と人材サービスの基本的な内容と、それぞれのメリット・デメリットや有効活用の方法をご紹介致しました。
採用代行は、採用業務を一通り網羅するサービスであるのに対し、人材紹介は募集から採用までに特化したサービスであることが分かりました。
どちらの方法も、こうしたサービスを提供する企業の豊富な知識とノウハウを利用があるため、業務の効率化を中心としたさまざまなメリットがありますが、頼り過ぎると、コスト面や採用経験が蓄積されないなどのデメリットもあります。
採用代行や人材紹介サービスを検討している企業は、この記事を参考に、サービス内容やメリット・デメリットをしっかり理解し、それぞれのサービスを利用してみて下さい。