卒業後の進路を進学か就職かを決めるのは、自分の将来に関わるため、非常に重要な選択です。売り手市場による人手不足問題から、高校生の求人率が上がっており、反対に求職率は減少傾向にあります。
高卒者を新入社員として採用する場合、大卒者と異なる点があり、制限が多いため、採用活動を行う際、注意しなければなりません。
今回は、2023年における高卒採用者の動向と、大卒採用との違いや採用時の注意点などについてご紹介致します。
2023年高卒者の動向
採用市場では売り手市場が続いています。2023年大卒の有効求人倍率は1.58倍で、前年より、1.50倍でやや増えています。
では、高卒採用の動向はどのようになっているのか、見ていきましょう。
・求人数は10年前より増加傾向
少子化が続き、労働力不足が問題になる中、有効求人倍率は増加傾向にあります。2023年の全国の有効求人倍率は1.32で、前年同月は1.31とほぼ同推移で留まっています。
ところが、高卒者の動向で見てみますと、求人数が10年前より継続して増加傾向となっています。
厚生労働省から、2023年3月卒業の高卒者を対象とした、2022年7月末現在のハローワーク求人・求職状況を発表しています。
上記の発表によりますと、求人数は約40万1千人で前年同月の16.2%増、対して求職者数は、約13万3千人で前年同月より、8%減、求人倍率は3.01倍で前年同月の0.63ポイント上昇となっています。
このことから、高卒者の求人状況は、全体の求人状況より高い割合が推移していることが伺えるでしょう。
・離職率は大卒より高い
新卒で採用された新入社員の3年以内の離職率は、約30%と言われており、厚生労働省㏋では、学歴別新規学卒者の離職率を、令和4年10月に発表しています。
その内容によりますと、入社3年以内の離職率が、高卒では35.9%、大卒では31.5%という結果で、前年同月では、高卒が36.9%、大卒で32.8%になっています。
中小規模の事業所での離職率が高い傾向があり、特に30人未満の離職率は5割を超えます。これに対して従業員数が1000人以上の企業は、離職率が例年25%前後です。このことから、高卒者の離職率は、大卒よりやや高く、特に中小企業で離職率が高い事が分かります。
大卒者と高卒者の採用方法の違い
大卒者と高卒者、同じ新規採用でも、就活ルールにはさまざまな違いがあります。高卒者は“学生保護”という概念から、三者間(全国高校学校長協会、主要経済団体、文部科学省および厚生労働省などの行政)において、はっきりとしたルールが決まっています。
高卒者の採用を検討している企業は、以下のルールについて、しっかり把握しておきましょう。
・高卒と大卒との採用方法の比較(日程は2023年8月現在)
項目 | 高卒の場合 | 大卒の場合 |
就活日程 | ハローワークへ求人申込:6月1日以降 ハローワークで求人票受取:7月1日以降 応募書類受付開始:9月5日受付開始以降 採用選考開始&内定時期:9月16日以降 | 広報解禁:3月1日以降 選考開始:7月1日以降 内定時期:10月1日以降 |
就活開始時期 | 7月以降学校を通じ、求人票が開示される。希望する企業へ学校を通じ、見学等を夏休み中に行う。 | 企業㏋や採用サイト、合同説明会など、卒業年度直前の3月1日が広報解禁日からスタート |
選考の流れ | 求人票を見て応募を希望する学生が、学校を通じ応募→書類選考や面接→内定 | 応募もしくはスカウト→書類選考→複数回の面接→内定 |
服装 | 学校の制服またはスーツ | スーツ |
内定決定時期 | 卒業年度の9月16日以降 | 卒業年度の10月1日以降 |
・ハローワーク求人票や募集解禁時期などのルールがある
高卒採用を検討している企業は、まずハローワークにて求人申込の手続きを行います。ハローワークで高卒者専用の求人票を受け取り、6月1日以降管轄のハローワークに提出し、求人申込を行います。
ハローワークは、企業から提出された求人票をチェック後、確認印を押印後、企業へ返却します。
企業は、7月1日以降ハローワークの確認印が押された求人票を高校へ送り、推薦を依頼します。
高校は、7月1日以降に求人票を公開します。
・一人一社制
高卒採用の場合、学校を介して推薦を受け応募するという“学校斡旋”形式を取るのが基本です。学校を通しての推薦では、原則一人一社制という決まりがあり、一つの企業へ応募した後、合否結果が出るまでは、他の企業への応募することが出来ません。
高卒採用が学校斡旋を行うのは、次の二つの理由があります。
・企業や職業に対する理解が未熟な高校生に対し、学校側が学生をサポートするため
・学業に支障をきたさない範囲で就職活動のバランスを見つつ、平等な就職活動の機会を
得るため
ただし、求職者が他社と比較する事が出来ない、学校を介した推薦ということで辞退が難しく、企業から見ても、自社について学生側に詳しく紹介できないといった問題があります。
こうしたことから、ミスマッチが生じ、採用後の早期離職に繋がりやすいのではないかという懸念も出ており、ルールの見直しが提案されています。
ルールの見直し内容については、自治体ごとに違いがあります。10月1日以降では、多くの都道府県で二社以上の企業へ応募可能となっていますが、一部北海道や富山県、山梨県、長野県、新潟県、石川県、京都府、大阪府などでは、10月中旬や11月から二社の応募および推薦が可能になっています。
・高校生への直接連絡は禁止されている
高卒者の場合、求職者である学生へ直接接触することは、禁止されています。職場見学や面接の日程調整、選考結果の連絡など、採用に関するあらゆることは、学校を介して行われます。
そのため、まずは職業紹介から、しっかりと企業と学校側との信頼関係を作らなければなりません。先生たちに仕事や企業の事を理解して貰わなければ、生徒へ推薦することが出来ないためです。
企業の事業内容や風土が、学校側へきちんと伝わっていれば、企業にマッチする学生を学校側が選んで推薦してくれることに繋がるでしょう。
また、面接の日程も学校を通じて行われます。そのため、ドタキャンや日程調整ミスなどが起こりにくいというメリットがあります。
・書類選考のみでは選考出来ない
高卒採用では、年度により若干日にちの違いはありますが、9月5日の応募書類受付開始日より、応募者からの応募受付が行われ、その後9月16日より面接や試験などの選考開始となります。
高卒採用では、書類のみで採用の可否を決めることは出来ませんので、注意が必要です。
・全国高等学校統一用紙を使って行う
企業が高卒採用は、求人申込を行う際は、ハローワークを通して行いますが、その際高卒採用専用の求人票をします。
企業独自の求人票は使用できず、必ず専用の申し込み用紙が必要です。
・面接時にNG質問がある
高卒採用だけ限ったことではありませんが、面接時に禁止されている質問があります。本人の適性や能力に直接関係のない質問は禁止されています。例を上げますと、以下のような内容になります。
・両親の職業や出身地、生活環境や家庭環境
・本来自由である内容(人生観や尊敬する人物)
その他、身辺調査の実地、合理的客観的に認められない健康診断、面接以外のコミュニケーションなどは、面接時以外でも禁止されているので気を付けましょう。
募集から内定までの基本的なフロー
高卒採用の募集から内定までの流れを、学生側、企業側からそれぞれ見ていきましょう。
学生側の流れ
高校2年生の1月以降、3年の夏休み前あたりまで、学校側と三者面談などで、進路について話し合います。
3年生になると、就職説明会等があり、高校3年生の7月以降求人票が公開されたのち、応募したい企業へ、夏休み等を利用し見学を行います。
9月に入ると希望する企業へ応募し、9月中旬には選考が行われます。内定が出ればそれで就職活動は終了となります。
企業側の流れ
採用活動の1年ほど前より、採用する人物像や訪問する学校など、採用計画を練ります。その後、高校の特色を調べ、求める人物像が多く集まりそうな高校を訪問し、企業の特色や事業内容などを先生たちへ説明します。
次にハローワークが開催する学卒求人説明会へ参加し、高卒求人登録用紙を受け取り、6月1日以降、企業が管轄するハローワークへ提出します。
7月1日以降、ハローワーク確認印のある求人票を高校へ持参または送付し、高校から学生を推薦してもらいます。
夏休みに、学生からの企業見学が受けられるように、準備をしておきます。9月に入ると、応募書類が届き始めるので、それを元に面接等を開始し、選考ののち、合否を出します。
高校新卒採用を成功させるポイント
高卒採用を成功させるポイントについて見ていきましょう。
・採用計画をしっかり練ろう
高校新卒者の採用では、大卒採用と違い、多くの制約があります。また求人数は上がっているのに対し求職者が少なく、高卒新卒採用は企業にとって厳しいのが現状です。
高卒者の採用を検討するならば、まずは高卒新卒採用の仕組みや、ルールで定められた日程を把握し、同業他社で成功している企業例を参考にすることや、過去に就職率の高い高校について調べていく事が大切です。
その上で、就活ルールをもとに、自社が求める人物像、業務内容、スケジュール、担当者、入社後の教育なども決めていきましょう。
・高校の特色を知っておく
高校には、総合高校、工業・商業などがあります。自社の事業内容・過去の採用実績と、高校の風土や学校理念、さまざまな角度から、自社に見合う学校かどうかを見ていきましょう。
・先生たちの信頼を得る
高卒採用は、学校を通し行われる採用活動です。まずは学校の先生に企業の事業内容や求める人物像、企業理念などをしっかり理解して貰わなければなりません。
まずは、先生たちに自社についてしっかり理解して貰えるよう、分かりやすい資料作りをしましょう。先生たちに企業を理解して貰うことで、生徒の中から、自社にマッチする人を紹介される可能性が高くなります。
早期離職を防ぐために出来る事
高校新卒採用は、一人一社制やハローワークの確認を受けた求人票の開示、学校を通した採用活動など、多くの制約がありますが、こうしたしっかりした制度により内定率が高い反面、早期離職の割合が高い傾向があります。
理由としては、学校を通じて採用活動が行われるため、生徒自身との接触が少ない点と、企業側の入社後の育成面の問題が考えられます。
社会経験に乏しい高校生自身が、企業や業務内容について、社内見学や資料を見ただけで企業か判断するのは困難ですし、企業側が、高校新卒者を育成する環境を十分に整えていなければ、職場環境に馴染めず、早期離職に繋がってしまう原因になるでしょう。
早期離職を防ぐためには、企業側が事前に高校側との入念な話し合う事と、研修などを充実させるようにしていく必要があります。
まとめ
今回は、高校新卒採用のルールや2023年度の動向、大卒者との違いなどをご紹介して来ました。
高卒者の求人数は増加傾向が続き、対して求職者数は減少傾向が続いています。2023年度も変わりなくこの動向が続いています。
また就活ルールは学生保護の観点から、大卒と比べて制限があり、まずは就活ルールを理解し、入社後の環境を十分整えるなど対策を行い、活動に臨む必要があります。
高卒者の採用を検討している企業は、この記事を読んで参考にしてみて下さい。