内定辞退は企業にとって、大きな悩みの一つです。計画を立て、一度に採用する人数を決めて採用活動を行うなか、内定した人が辞退してしまうと、再び採用活動を行わねばならず、企業にとっては時間と費用のロスとなるためです。
内定辞退となる原因の一つに「親の反対」という理由があり、選考時に親に確認をする(略してオヤカク)が大切な確認事項の一つとなっています。
オヤカクとは、どういった事を指すのか、採用活動におけるトラブルを防止するために、企業が出来る対策についてご紹介致します。
オヤカクとは
オヤカクとは、内定を出した求職者の親が自社で勤務する事を知っているか、賛同しているかという事を確認する行為を指します。
なぜオヤカクが必要になるかと言うと、内定後に親から会社の規模や業務内容についての問い合わせがあることや、「親が反対した」とい理由で辞退するケースが見られるためです。
就職活動を行っているという事は、学生から社会人への一歩を踏みだす行為であり、子供の就職先に親が出てくる行為は行き過ぎだという意見も聞かれます。
ですが、株式会社ネオキャリアのアンケートによりますと、約50%が親の意向によって内定辞退を申し出たことがあるという結果が出ており、採用活動において、親への対策は無視できない問題です。
では、親が子供の就職するブロックする「親ブロック」はどうして起こるのか、見ていきましょう。
なぜ「親ブロック」が起きるのか
本来であれば、自分の就職先ですから、魅力を感じた企業へエントリーし、書類選考、面接と進んでつかみ取った内定先について、親へは報告だけすれば良いはずです。
ところが、本来は相談相手であるはずの親が、決定権を持ってしまう事が「親ブロック」となる原因です。
親が子供の就職先に介入しすぎる原因として、少子化で親の干渉が子供一人に向きやすい事、コロナ禍で就活の相談相手が狭まっていることが考えられます。
就職先を決定する事は、これからの生活全般に関わってくるため、簡単に決められる事ではありません。
そのため、これまで就活生は、就職先のOB・OG訪問や学校内の就職相談室、ゼミやサークル内の先輩や先生などたくさんの人に相談をして決定して決ました。
コロナ禍により、オンラインが主流になり、同期はおろか、ゼミやサークルなどで先輩や後輩との交流も無く、OB・OGを見つけるのも一苦労という状態です。
そのため、もっとも身近で社会人経験のあるのは親であるため、必然的に親へ相談する機会が増えることになります。
親は、自身の経験や、コロナ禍で多くの企業が倒産する状況を見ている点から、子供の就職先についてシビアな目で見てしまいがちになり、子供が決めた就職先に難色を示す「親ブロック」へとつながってしまいます。
オヤカク対策が急務となっている理由
就職みらい研究所の調査によりますと、2022年卒の2022年の7月時点での内定辞退率は55%に上ります。
親ブロックには、親が子供に内定が決まった企業の辞退を促すなど間接的な行為と、親から企業に直接連絡が行くケースもあり、オヤカク対策が必要です。
① 少子化で売り手市場が続いている
以前より日本では少子化による労働力不足が問題となっており、会社発展のためには、未来の働き手の確保が重要になっています。
そのため、売り手市場が続いており、採用市場競争は激しさを増しています。
新卒者を獲得するため、各企業で募集に力を入れ、効率的な母集団を形成すべく計画を立てていますが、慢性的な人手不足に悩む業種もあり、人の採用は企業にとって重要業務になっています。
② 親が企業に情報を求める傾向が高まっている
近年ブラック企業や過労死問題など、劣悪な労働環境が社会問題となり、ニュースで目にする機会もあるでしょう。それは、整備が整っている大企業より、中小企業で起こりやすい傾向があります。
日本の企業全体の9割以上が中小企業ですので、誰でも知っている大企業への就職先が決定する割合の方が少なく、多くの学生が今まで知らなかった企業へ就職することになるでしょう。
今まで知らなかった企業に対し、どのような企業なのか、経営状態や勤務実態について、親としては心配になり、内情を知らないが故、内定に難色を示すことに繋がります。
③ 大企業の通年採用解禁で中小企業の内定辞退率増加が心配されるため
2022年より、大企業が通年採用を解禁しました。今まで大企業は採用時期が決まっており、大企業に不採用となった学生が中小企業へ流れていくという、“住み分け”が出来ていました。
ところが、大企業の通年採用が解禁になり、1年中採用活動が行えるということは、その分中小企業へ流れてくる学生が減ることになり、中小企業の人手不足に拍車がかかることが懸念されています。
採用活動における人材も費用も限られる中小企業では、内定辞退は大きな問題であり、オヤカク対策が重要な課題となっています。
オヤカク対策は3つの時期に応じて行おう
オヤカク対策は、採用業務全体に渡り、行うに越したことはありません。内定が決まってから対策を行うのではなく、エントリーから面接などの選考時、内定後などそれぞれの時期に応じて行いましょう。
① エントリー時期
就活のスタートはまずエントリーする企業探しからスタートします。学生や求職者は企業規模や企業理念、勤務地や事業内容など、さまざまな条件を見ながら企業を選び、エントリーしていきます。
学生や求職者が企業情報を集める方法は、多岐に渡ります。会社HPやSNS、求人サイトやOG・OBの体験といったところでしょう。
エントリー時期の対策として、オヤカク対策が有効なのが企業HPの活用やパンフレットです。企業HPには、親が知りたいと思う情報を掲載し、給与や休日などの待遇面、教育や研修、先輩の声といったような、就職後のリアルな声を掲載し、不安が解消できるようにします。
② 選考時
選考は、直接学生や求職者と企業担当者が対面をする大切な業務です。面接時には直接「こちらの企業を受けることを親御さんは知っているか」、「親御さんはこの企業に入社することについて、どのように感じているか」と一言質問を入れるだけで、内定者の意識付けになります。
面接時には内定が欲しいあまり、面接者は本当の事は言わないかもしれません。でも今回の応募について、親とコミュニケーションを取っておいて欲しい旨は、面接時に伝えておくのも意識付けになるでしょう。
③ 内定後
内定後は、内定辞退を防ぐよう、綿密な対策が必要です。具体的には、内定承諾を親御さんにも貰うようにする、会社HPの案内やパンフレットを同封する、職位が上の方から、親御向けのメールやメッセージを出してもらうといった対策があげられます。
親から反対されているからという理由で、内定辞退を申し出てきた学生には、会社の部長クラスや役員クラスの方より、直接親御さんに内定辞退の取り消しの説得を試みるという方法もあります。
オヤカクの具体的な対策
親ブロックは、情報不足や将来への不安や思い込みから来ていることもあるため、その不安を解消することがオヤカクの大切なポイントです。
親の不安を解消するための、具体的な対処方法を見てきましょう。
① 会社情報を公開しよう
まずは、社員待遇や経営状況など、会社情報をオープンにし、親に知ってもらう事が第一のステップです。
a.会社案内パンフレットの送付
面接案内を郵送する場合や、内定後に会社案内のパンフレットを親向けに同封しましょう。
パンフレットが無い場合は、新たに作成しておくことをオススメします。
またパンフレットがある場合も、写真や掲載情報が古くなっていないか、定期的に見直しをしておきましょう。
今はネット媒体が主流ですが、学生の親世代ではまだ紙媒体の方が手に取りやすい事や、ダイレクトに視覚に入りやすいので、オーソドックスで取り組みやすい方法です。
b.最新の企業HPを知らせる
採用通知の中に、企業HPを案内し、閲覧してもらう方法です。
企業HPには、事業内容や給与などの待遇、休日や育児休暇や介護休暇などの福利厚生面、社員教育や研修などを掲載し、職場環境について理解してもらいます。
企業HPは、誰でもいつでも閲覧可能な情報ですので、採用活動に限らず、担当者を決め、定期的に最新情報をアップするようにしましょう。
c.企業HPや採用ページに親宛のメッセージを作成する
企業HPに採用の案内がある場合、採用ページに親宛のメッセージを掲載するもの、オヤカク対策になる方法です。
自社がどのような事業を目指し、会社の発展のために目標にしていること、職場環境などを親の目線に合わせて、メッセージを載せるようにします。
d.自社製品やサービスの案内をする
オヤカク対策として、自社の製品やサービスを提供する、案内をして実際に利用してもらうなど、事業内容を実際に体験してもらう方法です。
この方法は、オヤカク対策ができるだけではなく、上手くいけば会社の宣伝にもなります。日本企業は9割以上が中小企業であり、子供が内定した企業の製品が、日常で普段何気なく利用している製品に関わっているかもしれません。
ただし、この方法は食品会社などの一部の業種を除き、製品化されたものを配布出来る企業は限定されるのが難点です。
また、製品やサービスの案内は、会社宣伝にもなりますが、渡す時期には十分配慮しましょう。例えばエントリーしてきた学生すべてに渡してしまうと、中には不採用となる人にも渡すことになり、中には不快に感じる方が居る事も忘れてはいません。
内定後に内定者とその親だけに渡すなど、渡す相手には十分配慮が必要です。
② 内定について親からの賛同が得られるようにする
会社情報を提供し、会社の中身を知ってもらったら、続いて賛同や承諾をしてもらうような、働きかけを行っていきます。
a.親向けに内定理由通知書を出す
内定理由通知書とは、内定の通知だけではなく、理由も含めて記載された通知書です。本来内定は、本人が内定通知書へ承諾し提出すれば良い筈です。ですが、オヤカク対策として、内定通知書とは別に、内定理由通知書を渡すことで、親の承諾を得ようとする方法です。
b.職位の高い人から親宛に電話や手紙を送る
内定時に、職位の高い人から親宛に電話で知らせる、手紙を送付するという方法です。この方法は、中小企業の中でも、採用人数が限定されるアットホームな会社に適しています。
直接親と部長や役員クラスなど、職位の高い方と電話で話をし、内定した経緯やどのような点で採用に至ったのか話をして、理解を得る方法です。
電話の他、手紙で丁寧に内定に至った経緯を書くもの良いでしょう。
この方法は、親との関係に良好ではない場合は逆効果となる場合もありますので、面接時にそれとなく、親との関係について確認をしておくことが大切です。
c.内定者の親を対象とした食事会や交流会の開催
内定した親を招待し、企業の社長や管理職、現場担当者などを交え、食事会や交流会などを開催し、会社について理解してもらう方法です。
カジュアルな雰囲気で、会社の経営状況や事業展開、現職の社員などから職場環境について、ざっくばらんに質問できるメリットがあります。
こちらも本人と親との関係が良好な場合に効果的な方法ですので、内定者と親との関係について注意が必要です。
d.CEOや部長クラスの方が家庭訪問を行う
企業規模が小さく、採用者が数名である場合、現場管理職の方やCEOの方が内定者の実家に直接訪問する方法です。
この方法を行うには、訪問の許可を内定者本人と親に得る事と、日時などの調整をしっかり行う、長時間の訪問にならないよう配慮するなど、十分な注意が必要です。
まとめ
今回は、内定者の親ブロックに対するオヤカク対策についてご紹介致しました。
少子化や労働環境の変化により、親が子供の就職先に決定権を持つ機会が増え、内定辞退の原因となるオヤカク対策が、求められるようになりました。
親が子供の就職先に難色を示す場合、パンフレットや会社HPなどで、会社情報を開示し、まずは、会社について知ってもらうこと、賛同を得ることが大切になってきます。
オヤカク対策に悩んでいる企業の方は、こちらの記事を参考にしてみて下さい。