企業規模や業種に関わらず、雇用のミスマッチに悩む企業は少なくありません。
費用と時間をかけ採用活動を行っても、採用した人材が早期離職したり、思うような成果に繋がらなかったりすれば、企業にとってはマイナスとなります。
ミスマッチを無くすべく、各企業でさまざまな試みがなされていますが、雇用のミスマッチは各企業だけの問題ではなく、社会全体の要因も複雑に絡むため、対策を行うには社会的な要因についても知っておかなければなりません。
今回は、雇用におけるミスマッチの原因と対策についてご紹介致します。
新卒3年以内の離職率は高卒で約4割・大卒で約3割
厚生労働省で、令和2年度における新規採用から3年以内に離職した人の割合が発表されました。
その結果を見てみますと、平成30年3月度卒業者の3年以内の離職率は高卒者で36.9%(約4割)、大卒者で31.2%(約3割)という内容になっています。
つまり、時間と費用を掛けて新卒を採用しても何らかの理由で3人に1人は離職してしまう計算です。
ただし、令和2年全体における離職率は離職率は14.2%となっており、新卒3年以上の離職率は2倍以上であり、新卒3年以内の離職率高さが伺えます。
採用コストの平均は90万~100万
企業は必要な人材を確保するために、ある程度の費用とコストを掛けています。
リクルートの研究施設である“就職みらい研究所”では、就職に関するさまざまな調査を行って発表しており、“就職白書2020”では、2019年年度新卒採用と中途採用に掛かる一人当たりのコストを発表しています。
その結果によりますと、企業が一人当たりに掛ける費用コストは新卒採用で93.6万円、中途採用で103.3万円でした。
企業規模や業種によりますが、必要な人材を確保するために各企業では、しっかりと費用を掛けて採用活動を行っていることが分かります。
では、これだけの費用と労力を掛けても、どうして雇用のミスマッチが起こるのか、その原因を見てきましょう。
雇用のミスマッチの原因は大きく分けて2つある
雇用のミスマッチの原因は、大きく分けて2つあります。
社会的要因の呼ばれるマクロ的要因と、企業自体の採用活動に問題があるミクロ的要因です。
マクロ的要因
マクロ的要因は次のようになります。
- 少子高齢化による労働力不足
- 企業規模や業種による需要と供給のバランスのミスマッチ
- 求職求人情報の多様化によるお互いのニーズの不一致
・少子高齢化による労働力不足
少子高齢化による労働力不足は以前から深刻な問題として捉えられ、さまざまな対策が取られています。
例えば、定年引上げや高齢者を雇用した企業、出産や育児による対策を行った企業に対し、助成金の支給や度重なる法改正などを行ってきました。
このように、少しでも労働力確保のための対策が取られていますが、出生率の低下が続いており、今後も少子高齢化の状況は続くものと考えられます。
・企業規模や業種による需要と供給のバランスのミスマッチ
厚生労働省が発表した、令和4年4月の有効求人倍率は1.23倍で、新規求人倍率は2.19倍となっていました。
有効求人倍率は1倍以上の数だと、求職者より求人数が多い計算となり、企業が人を確保するのが難しくなります。
こうした状況ですと、どうしても大企業や知名度の高い企業に人が流れやすく、知名度が低く企業希望の小さい中小企業は、ますます人が集まりにくいという現象が起こります。
その他、地域によっても採用状況は異なります。
例えば2022年6月の都道府県別の有効求人倍率では、トップの福井県1.89倍と、最も低い神奈川県と沖縄県の0.9倍では2倍近い差がありました。(独立行政法人 労働政策研究・研修機構参照)
また、職種別でも、美術家・デザイナー系業種が0.22倍だったの対し、建築媒体工事業種は、8.66倍など、大きな開きがあります。
つまり、求人数と求職者のバランスが企業規模や職種、地域差により偏っており、求職者が就きたい職業や就業場所と、企業が求める条件との間に差があり、雇用のミスマッチが起こる原因となっていることが考えられます。
・求職求人情報の多様化によるお互いのニーズの不一致
もう一つの原因として考えられるのが採用方法の多様化です。
以前は求人活動と言えば、求人広告を見て応募するか、新卒採用、紹介などが一般的でした。
現在は他企業との差別化を図るため、SNSを利用した活動や情報発信、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用など、採用活動が多様化しています。
そのため、かえって情報が氾濫し、企業・求職者双方に必要な情報が届きにくくなることが考えられます。
ミクロ的要因
ミクロ的要因とは企業に何らかの理由があり起こっている現象です。
マクロ的要因と違い、ミスマッチとなる要因を探れば、対処できる可能性があります。
・情報提供の不足
求職者は企業から出される求人情報やHPなどを元に、企業情報を仕入れていきます。
企業から発信される情報が不足していたり、あいまいな点があったりすると雇用のミスマッチが起こる原因になりやすくなります。
例えば求人情報を出す際に業務内容や待遇面の情報不足や、自社を過大評価した内容になっていないでしょうか。
また、企業理念や事業内容が簡潔過ぎても閲覧者に伝わりにくかったり、誤解を与えるリスクが高まります。
・求人方法が業種に合っていない
求人広告を出しても集まらない場合や求める母集団が形成されない場合は、求人方法が現在の企業の状況に合っていない可能性があります。
そのような場合は、求人方法を変えてみる必要もあります。
例えばハローワークや求人情報誌の掲載などから、SNSや転職サイトなど、求人情報を変えてみるといった方法です。
長期間に渡り同じ求人場所へ掲載し続けていると、閲覧している人も同じ人が見続けている可能性が高いので、求人方法を見直し、募集する人材が利用する求人方法を調べてみましょう。
・面接での選考の偏り
面接時には良い印象だった人が実際に働きだしたらあまり成果が出ていない、早期離職してしまうような場合、選考に問題があるのかもしれません。
今はネット上でも、面接対応のマニュアルが数多く載っており、学生はもとより、転職希望者も応答の仕方をしっかりと練習している求職者がほとんどです。
面接官を変更する、面接方法を見直すなど、選考に問題がないか確認する必要があります。
・求職者の認識不足や自己分析不足
求職者が仕事を探す際、仕事内容や職場の雰囲気、待遇などの情報を得てから応募するでしょう。
職場の情報を集めるとともに、忘れてはならないのが自己分析です。
どんなの条件の良い仕事でも、企業が求めるスキルを持っていなければ、入社後に自分も周囲の人も辛い思いをすることになりますし、職場の業務に影響が出てしまい兼ねません。
求職者の応募内容や企業風土に対する認識がずれていたり、自分の能力や経験や性格などの自己分析が足りていなかったりすると、雇用のミスマッチが起こりやすくなります。
・入社後の配置ミスやフォローが不完全
採用活動は不足する人員を補うために行われるため、必ずしも本人の希望する場所に配置されるとは限りません。
ただし、あまりにも不得意とする分野に配置されてしまうと、別の分野では能力を発揮できる可能性があったのにも関わらず、成果を上げることが出来ず、早期離職につながってしまう事もあるでしょう。
また新入社員や異業種から転職してきた社員も、研修やフォローをしっかりしておかないと、不安や不満を抱えたまま業務に就くことになり、企業も社員も共にマイナスになります。
雇用のミスマッチが続くことによる影響
雇用のミスマッチが続くと企業にとってどのような影響が出るのか、見ていきましょう。
・費用や労働の損失
採用活動には求人広告費用や転職サイト利用料、採用担当者従業員の給与、内定者の交流会など費用の他、採用に携わった従業員の労働時間などが掛かっています。
せっかく費用や労力を掛けて採用した人が、早期離職してしまうと、これらがすべて無駄になってしまいます。
・従業員への影響
新たに人が入ってくるとなると、入社した人はもちろんのこと、迎え入れる周囲の人も慣れるまで、時間を要します。
せっかく新しい人を迎え入れ、指導や引継ぎを行っても、なかなか成果が出ない、早々に離職してしまうと、教えた時間や労力がゼロになってしまうため、指導した方としては自分の業務時間を削って行っている訳ですから、多少なりとも虚無感を感じるでしょう。
職場内でこうした事が繰り返されると、他の従業員のモチベーションが下がる、不満が出てくるなどの影響が考えられます。
・企業イメージの低下
転職サイトや求人広告には口コミがあり、実際に働いている(もしくは過去に働いていた)社員の声を聞くことができるようになっています。
これから応募してみようかと考えている方にとっては、参考にする方も多いでしょう。
さらに、近年ではSNSで書き込みを行う人も多く、あっと言う間に情報が拡散するため、雇用のミスマッチが続くと、企業イメージの低下につながる可能性もあります。
雇用のミスマッチに効果的な対策
雇用のミスマッチを防ぐには、ミスマッチとなる原因を知り、効果的な対策を立てることが大切です。
・求人方法を見直す
求人を掛けても人が来ない、希望する母集団が形成できない場合、求める人材層に求人情報が届いていないのかもしれません。
希望するスキルや人物像に求人情報が届くには、どの方法を利用するのが良いのか、一度見直してみましょう。
・面接基準について見直す
面接は応募者の中から自社に見合う人物を短時間で見極める必要があり、高度な知識と経験が求められます。
同じ面接官が対応している場合、面接官自身が認知バイアスに掛かってしまっており、判断に偏りがあるかもしれませんので、面接官を定期的に入れ替える、複数の面接官で総合的に判断するなどの対策が必要になってきます。
またコロナ禍でオンラインによる面接を行っている企業も多いでしょう。
オンラインでは、対面に比べると表情や声の様子、全身が見えにくいため、判断が難しくなりがちです。
可能であれば1回は対面で面接する、交流会を設けるなど、実際に直接会う機会を設けるなどの対策を取りましょう。
・内定後から入社までのフォローを行おう
中途採用者であれば採用決定から実際の入社まで、あまり間は空きませんが、新入社員の場合、内定から入社まで半年以上空くことになります。
その間、新入社員の中には、入社までに不安を感じる人もいるでしょう。
対面やオンラインでも交流会を設ける、相談が来た場合は、出来るだけ早く返信をするなどのフォローを行いましょう。
・早期離職を防ぐ対策を取ろう
続いて、早期離職を防ぐ対策をまとめました。
- 社員研修を充実させる
- 社内制度の見直し
- 福利厚生や待遇面などの対策
- リモートワークなど柔軟な働き方の導入
誰でも新しい環境に慣れるまでは、不安を感じるものです。
出来るだけ早く職場になじめるように、新入社員をはじめ中途社員にも、社員研修を行い、不安を解消できる場を作りましょう。
また、社内制度で不公平感を感じていないか、募集内容と差異はないか、福利厚生や待遇面で不満を感じていないかなどの見直しも必要です。
その他市場の変化に合わせて、リモートワークなど柔軟な働き方の導入も検討してみましょう。
まとめ
今回は、雇用のミスマッチの原因とその対策についてご紹介致しました。
雇用のミスマッチは、企業の努力だけではどうにもならないマクロ的要因と、企業内で対策が可能なマクロてき要因があります。
雇用のミスマッチはそのままにしておくと、他の社員のモチベーションの低下や経済的な損失といったマイナス面があるため、社会情勢を見つつ、企業内で対策可能な内容は、見直しを行う必要があります。
雇用のミスマッチで悩んでいる企業は、この記事を参考にしてみて下さい。